木曽駒ヶ岳への山旅

剣ヶ池と宝剣岳・3
                              中央アルプス/剣ヶ池と宝剣岳

今年の夏は梅雨明け宣言が出されたものの、その後は梅雨に逆戻り、といった天候が続いています。数えるくらいしか好天はありません。

青空が広がる写真日和を私は見逃すわけにゆかず、チャンスを待ち望んでいました。

8月4日未明、ベッドで眠っていた私は窓から侵入する冷気に目覚め、好天の兆しを長年の感で直感。カメラ機材一式を入れたザックを愛車に積み、登山の服装に身を整え、登山靴を履き、バンダナを頭に巻く。身も心も引き締まり、仕事モードに早くも切り替わる。

駒ヶ根高原に愛車を止め、登山バスに乗車。駒ヶ岳ロープウェイの始発駅・しらび平では、例年2~3時間の待ち時間が嘘のような静けさ…。駅長さんのHさんにごあいさつし、ゴンドラに乗った。
天空の散歩…。まるで鳥になったかのような目線で、眼下に連続する中御所谷の滝群を見、前方にひときわ鋭い岩壁が近づくと、斜度60度もの巨大花崗岩の一枚岩にぶつかりそうになり、乗り合わせた観光客やハイカーは皆くちぐちに感嘆の声を上げた。
「キャァー」という女性の鋭い叫び声も飛び交う。
そんな天空からの絶景を楽しんだ後、千畳敷駅を出て駒ヶ岳神社に参拝。ホテル千畳敷の敷地内をそのまま東へと周り、剣ヶ池へと下りた。すでに絵を描いている数人と、雄大な山岳展望を見ながら休憩する人などがベンチに腰掛けていた。
絵を描く中年のカップルに
「前を失礼します」と、一声かけて三脚を剣ヶ池畔にセット。碧空という言葉がぴったりする、澄み切った深い青空が広がり、屹立する宝剣岳の岩峰がさらに鋭さを際立たせている。湖面を渡る一陣の風が去った後、シャッターを切る。縦、横、さまざまな構図を創って撮影を終えた。

千畳敷は氷河時代の末期、氷河が後退するときに周囲の山腹を削り取って出現した圏谷。典型的なお椀を二つに割ったような地形であり、周囲の山肌から浸透した水が地下を豊かに潤すため、夏は見事な高茎草原のお花畑が開けます。さらに、宝剣岳がお花畑の背後に峻立し、お花畑と岩峰という日本屈指の風景が展開する地として、多くの山岳ファンの人気の的となっている。

この日の高山植物は、数年に一度の周期で咲く純白の大形の花・コバイケイソウ、それに黄色のシナノキンバイが群落し、モミジカラマツ、ミヤマクロユリ、コイワカガミ、シナノオトギリなどが彩りを添えて咲いていた。
剣ヶ池から長谷部新道方面へと一段下り、広大なお花畑と宝剣岳を作画。剣ヶ池へいったん戻り、千畳敷の中央部を西へと進む。八丁坂の基部で千畳敷駅への遊歩道を左に分け、そのまま稜線めがけて登った。石ゴツの広い道は、しだいに狭くなり、右手の斜面一面に花が咲き競うお花畑が現れた。『例年よりも花の咲きっぷりはいい。』


心の中で呟きながら、カメラを向ける。シナノキンバイの黄色い花にハクサンイチゲの白花が競うように大群落を形成し、葉や茎の鮮やかな緑色と、ベストマッチな色彩世界を醸し出していた。さまざまな色彩を、画面内にバランスよく構図を創る。画面上部には岩肌を露出した峰も配置させた。運よく雲も出現。

後半の登りは、登るにしたがって急斜面になり、細かく蛇行しながらぐんぐん高度を上げ、梯子をいくつかクリアーしたら稜線上に出た。このコースは30数年通った道だけれど、何回登っても距離こそ短いものの辛い登行が続く。

登りあげた稜線は「乗越浄土」と呼ばれる平坦な広場というイメージの場所。東に伊那前岳が、西南に宝剣岳が、北には中岳が近い。ここは西に折れ、青い屋根の宝剣山荘の裏側を北へ曲がり、中岳を目指した。すぐ右の赤い屋根の天狗荘と、小石を積んで囲ったコマクサ園を左手に見送ると、ひときわ大きなケルンの前に出た。
木曽駒ヶ岳へはケルンの分岐を左右どちらへ入ってもいい。直進は中岳を踏んで鞍部へ、左は中岳の西側山腹をトラバースして鞍部へ出るコースとなっている。

そのとき、雲が天空を支配しようと急ぎ足で乱舞を始めていた。
私は悪天の徴候を見て取った。

迷うことなく左の道へ進入、行程時間を稼ぐことにしたのだ。事実、中岳を登下降する直進コースよりも、左のトラバース道は鞍部まで約20分の短縮となる。

鞍部からは本岳目指して登り返し、途中から左へ入って頂上木曽小屋へと進んだ。
小屋のすぐ前には、コマクサのお花畑が保護育成管理され、ピンク色の可憐な花がちょうど見ごろを迎えていた。今年の花はかなり小ぶり、一株からの茎の本数は少ない。それでも必死に咲かせるコマクサの花を数厘、捉えた。中には白花もあった。

一年ぶりのコマクサに対面し、時の過ぎるのを忘れて40分ほど花と会話を交わした。もちろんファインダー越しである。

作秋ぶりに会った山小屋の管理人Kさんは、ことのほか壮健。黒く光ったカリントウと温かいお茶で歓迎してくれた。今年の花の状態を言葉少なく説明してくれたのだが、私が感じたこととほぼ同じだった。

「今年の花は背が低く小粒、春から秋の花がみな一緒に咲いています。」
Kさんは、そのように話してくれた。

生粋の山男であるKさんは、訪れる登山者にとことん優しい。小屋の周囲はもちろん、玄関から食堂、部屋、トイレにいたるまで整理整頓され、掃除も行き届いている。食事は、決して贅沢ではないけれど、温かいご飯と味噌汁が何よりありがたい。
真っ黒に日焼した顔に笑顔がこぼれ、白い歯と瞳が光る…。
登山者が問いかけるコースの情報には、的確に答える。誰もが安心して宿泊し、満足して出発して行く…。そこには変わらぬ営みが繰り返されているように思う。

この営みは10年、30年、いやそれ以上の歳月が過ぎているのだろうか。

動物や植物も同じではないかと私は思った。

子孫を残すために、ただそれだけのために必死で生きる、山の自然界にはそんな健気な姿が存在します。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

Alps Photo Gallery

Author:Alps Photo Gallery
たくましく生きる者の姿を。
厳かにして優しい大自然の表情を。
山岳写真家津野祐次と長谷アルプスフォトギャラリーのスタッフが綴る信州伊那市長谷にある、長谷アルプスフォトギャラリーの日記です!

カテゴリ
最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
フリーエリア
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
検索フォーム